日本では流通しにくい経口避妊薬

経口避妊薬は、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2つの女性ホルモンを配合した避妊を目的とする内服薬ですが、日本国内では名前は知られてはいるものの、女性が気軽に使用できるような状態とはなっていません。
海外では子供を産む・産まないという選択権を女性自身が行使するための手段のひとつとして、かなり広汎に流通しているようですが、日本国内での流通を阻む壁として、「医薬品医療機器等法」による規制があります。
この法律は、医薬品が病気の治療などにとってきわめて有効である反面、使い方を誤るとただちに副作用などの危険があることから、従来の「薬事法」を改正して、医薬品や医療機器の取扱いを全般的に規制するために設けられたものです。
経口避妊薬は、この法律のなかでは「処方箋医薬品」という位置づけがされています。これは、医師の診察を受けて、処方箋をもらってからでなければ、街なかの薬局やドラッグストアなどの店頭で購入することができない医薬品として規制されていることを意味しています。もし処方箋がないのにこうした医薬品を販売した業者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑となることが、法律上にも明記されています。
このような規制の背景としては、経口避妊薬を服用した場合の副作用として、しばしば吐き気や嘔吐、胸の張りや痛み、腹痛、不正性器出血などがみられるほか、重大なものとしては血栓症のおそれがあることが挙げられます。現在日本国内で流通している経口避妊薬の多くは「低用量ピル」といって、女性ホルモンの含有量を極力減らし、副作用を少なくしたタイプのものがほとんどですが、それでも副作用のリスクがないわけではないことから、こうした規制が必要と判断されています。

薬によって承認までの時間差が生じる

世界的に高い効果が確認され流通しているような医薬品であっても、日本ではまったく流通しておらず、個人輸入などの特別な手段をとらなければ使用することができないケースは意外とあるものです。
こうした事態が発生するのは、そもそも医薬品メーカーが厚生労働省に医薬品の承認申請をしていない場合もありますが、多くの場合、メーカーでの臨床試験や厚生労働省による審査などに時間がかかるのが原因とみられます。
医薬産業政策研究所の調査によれば、こうした日本と諸外国との差は平均して4年程度はあるといわれており、さまざまな病気に苦しむ人たちにとっての大きな足かせとなっています。
メーカーからの申請のためには、効果や効能の特定と、その有効性や安全性を証明するための臨床試験などの結果が求められますが、特に複数の疾患に効果があることをうたう場合については、それぞれの疾患ごとに有効性などのデータが必要となりますので、おのずと準備のために多くの時間を割かなければなりません。
また、厚生労働省の審査については、優先審査と通常審査という2つのパターンがあり、いわゆる難病や、生命に重大な影響がある疾患、病気の進行が不可逆的で日常生活に支障が生じるような疾患の治療薬については、他の申請に優先して審査を行うこととしています。このため、通常審査扱いになったものを優先審査のものと比較すると、承認までの期間に平均して1年程度の遅れが出ることになります。
例えば、経口避妊薬の効能は避妊であり、致死的な疾患治療が目的ではないので通常審査扱いとなり、その分だけ承認が遅れます。特に、低用量の経口避妊薬が最初に承認されたときの審査には9年かかりましたが、これには低用量の経口避妊薬の普及によってエイズなどの性感染症が蔓延するという懸念が示され、厚生労働省内の審議会がストップするなどの特殊事情があったことも原因となっています。